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Interview | 044限目「松田悠介」学

最大限引き出される教育システムを構築 教育業界の松岡修造に学んでみた

更新日:2016年11月24日

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Lecture

松田悠介 Yusuke Matsuda

認定NPO法人 Teach For Japan 代表理事
~時間を無駄にしていません?~

1983年生まれ

中学時代にイジメを経験するも、一人の体育教師の言葉によって自分の意識が変わり、イジメを克服。「教師が真剣に向き合ってくれたことで自分の人生が変わった」というこの経験から、教師になることを決意。大学を卒業後、都内の中高一貫校で教員として勤務。教員として教育現場に関わる中で、現場を離れて考えを深める必要性を感じ、千葉県市川市教育委員会 教育政策課へ移り、分析官として活動。その後、自分が考える理想の教育を実現するために、学校を設立することを決意する。学校経営のために必要なリーダーシップや、マネジメントを学ぶためハーバード教育大学院へ進学。そこで出会ったTeach For Americaのモデルに感銘を受け、帰国後Teach For Japanを設立。現在は、同団体の代表理事を務める。


今回、お話を聞かせていただいたのは、NPO法人Teach For Japanの代表理事松田悠介さん。「教育業界の松岡修造」とも呼ばれています。教員を志して入学した日本大学では、勉強に打ち込むと同時に、指導力をつけるため学習支援教室を立ち上げ、一般的な学習塾とは一線を画した指導を実施しました。このように松田さんは、教育に対する強い想いだけでなく、実行力も持ち合わせている熱血漢です。今回は、そんな松田さんに学習支援教室を開いたキッカケ、またTeach For Japanで成し遂げたい世界について伺いました。

関連URL:http://teachforjapan.org/

 

子どもの学ぶ意欲はエンジンと同じ

―学習支援教室を開いたきっかけは何ですか?

先生になるためには、必死に教科や学習指導要領の理解を深める勉強をするだけではなく、生徒指導のための指導力をつける必要があると考えていました。しかし、大学には実践的な指導力を身に付けることのできる機会が、教育実習以外に存在しなかったんです。『それなら自分で機会を作るしかない!』と思い、学習教室を立ち上げました。

それから生徒の募集を始めたんですが、元々塾に通っている子どもたちは、わざわざ学習教室に来ないんですよね。そんなときに来てくれた最初の生徒は、母子家庭の子で、家庭が経済的に厳しく塾に通えていませんでした。まずは、その子と3ヵ月くらい一緒に勉強していましたが、その子から口コミが広がり、そのうち周りの友達がやってきてくれたんです。最終的には、8名の子どもたちが集まってくれました。驚いたのは意図して募集したわけではなかったのですが、8人全員がひとり親家庭の子ども達だったということです。親同士で情報交換をしていたようです。こういった厳しい状況にいる子ども達と向き合った経験が、今の自分の活動を続ける原動力の一つになっていると思います。

―その中でもっとも苦労したことは何ですか?

気合を入れて活動を始めたものの、その子たちにいざ勉強を教えようとすると、まったく学ぶ意欲がないんですよ。『何で勉強しなくちゃいけないの?』という感じで。確かに自分もそうであったように、子どもたちからすると、いきなり『勉強をやれ!』と言われても、勉強をする意義、将来の目標を見出せないと勉強する気にはなれません。

それで、子どもたちが何をしたいのかを引き出してあげることが重要だなと思い、子どもたちのモチベーションを探るようになりました。『何が好きなのか』『どんなことに興味があるのか』など、過去の話を少しずつ聞いていくようにしました。未来は描きづらく、大人だって、『目標やビジョンはなんですか?』と聞かれたら言葉に詰まる人が多い。

だからこそ、私は未来を一緒に描くのではなく、過去を一緒に振り返ることにしました。これまで楽しんだこと、悲しかったこと、うれしかった瞬間、一生懸命取り組んでいた部活について話を聞いていく事で、彼ら彼女らの価値観を確認していったのです。そうすると不思議なことに、自分のことを少しずつ知っていくようになり、『あ、もしかしたら私〇〇に興味があるのかも』となるのです。つまり未来を見出すヒントは過去にあるという考え方です。

―子ども達はどう変わりましたか?

このプロセスは子ども達が自分自身のことを理解するプロセスでもあり、私が子ども達のことを理解していくプロセスでもあったんですよね。それが最終的に、信頼関係の構築につながったんだと思います。子どもたちが学ぶ意義を見つけ、私との信頼関係を築き、進んで学ぶようになっていきました。

だから、車で例えるなら、子どもの学ぶ意欲っていうのはエンジンが回っているかどうかなんですよ。エンストして止まっているエンジンに、一生懸命ガソリンを入れても意味がない。サビついているエンジンのサビを取って、いかにそれを回るようにしてあげられるかが重要だと思います。それは、対話やコミュニケーションを通してしか引き出せないなと感じました。また、この学習教室を通じて、子どものモチベーションを引き出す重要性を感じましたね。

学生の皆さんが持っている唯一のもの・時間

―これからTFJでしていきたいことは何ですか?

厳しい状況に置かれている子どもたちに対して、素晴らしい教育を提供し続けることです。生まれた環境によって、子ども達の人生が変わってよいわけがありません。子ども達は生まれる家庭環境は選べないわけです。だからこそ、どの環境に生まれたとしても、その子ども達の可能性が最大限引き出される教育システムを構築していくべきです。

これまでの一億総中流社会の中での教育課題は、『トップをどう引き上げるか』でした。ただ、これだけ子どもの貧困問題が深刻になってくると、トップをどうやってさらに引き上げるかを考えるとともに、『厳しい状況にいる子ども達が学べる環境をどう創るか』も考えていくべきです。それが公立教育の使命だと思っていますし、それをこれまで実現してこられたのが日本の強みです。全ての子ども達が希望を持って学んでいる社会そのものが、日本の希望になると信じています。

―そのために必要なこととは?

2つあります。1つは教師の質。日々、教室で子どもたちと向き合う先生が、どんな想いで、どういう能力を持ち、どういった向き合い方をして、どう教師自身が成長し続けるのかが、子どもの学ぶ環境に影響を与えます。『子どもに夢や目標を持つことの大切さを伝え、子どもが成長し続けられる環境を作る』、このことが大事なのですが、現状としてそういう環境作りをするのが難しくなっています。

もうひとつは“教員”という職業を魅力化すること。教職が不人気の仕事になり始めていることは深刻です。自分の親が教員をしていても、親から『教員は大変だからやめておけ』と言われたり、親の大変そうな姿を見て教員になりたくないと思ってしまったり・・・・・・。

国作りの根幹を担うのは教育だし、教育は人こそ命。教育に携わる人の質が下がり続けると、教育システムを持続することは不可能になります。だからこそ、“教員”という職業の魅力化は大切ですよね。分かりやすく言えば、就職ランキングで“教員”が一位にランクインすること。優秀な人たちが『教員になりたい。こんな大切な仕事はない、僕らが国作りをするんだ!』と現場に飛び込んでいくようにしていきたいですね。Teach For Japanの活動自体も、そういった思いを持った人を、一人でも多く学校現場に増やしていき、教職の魅力を社会に伝えていくことを意識しています。

―最後に、今の学生に伝えたいことをお願いします

今、私が持っていなくて、学生の皆さんが持っている唯一のものがあります。それは時間です。その他のみなさんが持っていて、私が持っていないものは、私が努力し続けることで手にできる可能性があると思っています。ただ時間についてはどうしようもできない。

学生のうちにできること、学生のときにしかできないことなんて、山ほどたくさんあるわけですよ。それが何か考えてやりきらないともったいないです。僕なんて大学四年間で、学習教室もやったし、単位なんて192単位も取って卒業しましたからね。1つでも多く学ばなきゃと思って、友達と話す時間も惜しんでがむしゃらにやっていましたよ。それが今の自分の礎を作っています。高校までは超落ちこぼれだったけど、大学で本当に努力したし、『自分自身がいい先生になるためにやれることは、今全力でやってこう』と思ったからそれに伴う行動をしてきました。例えば、僕は『授業つまんない』とか言ったことがないです。つまんない授業なら、休み時間に教授のとこに行って『授業もっとこうしてもらえませんか?』『もっとディスカッションとか入れたらどうですか?』って提案していました。

平均寿命まで生きるとして、今の学生には僕より10年以上多い、60年近くが残されています。それなのに、せっかく僕よりたくさんある時間を無駄にしていませんか。僕は今でも、毎日自己学習して、実業をやって、色んなネットワークを開拓して・・・・・・ってやっているんですよ。今の学生は、そんな貴重な時間という財産を余りにも甘く見ているし、あまりにも無駄にし過ぎているように感じます。だから、絶対にそれを無駄にしないでほしいです。

044限目「松田悠介」学
Presented by 今学びたい100人の学問

 

編集後記

今回は、「自分が大学在学中のうちに、一度はお会いしてみたい!」と思っていた松田さんに早くもお会いできて、本当に感無量でした。自分も教師になることを目指していますが、松田さんの大学時代ほど、真摯に勉強に取り組めているかというと、決して「はい」とは言えません。ただ、だからこそこれからは松田さんがインタビュー時におっしゃっていたように、今ある貴重な時間を少しでも有意義なものにしていきたいと強く思いました。今回、初めてのインタビューで松田さんを取材させていただいて本当に光栄でした!ありがとうございました!

2016/7/31
九州大学 浅山凌

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