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Interview | 036限目「大橋直誉」学

体験をプロデュース 世界最速でミシュランの星を獲得したソムリエに学んでみた

更新日:2016年11月24日

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Lecture

大橋直誉 Naotaka Ohashi

レストランプロデューサー
〜いろんな人に会おう〜

大橋直誉 Naotaka Ohashi

1983生まれ。北海道出身。

地元の調理師学校卒業したのち、2006年、東京の「レストランひらまつ」で2年間勤務。2011年渡仏し、ボルドー2ツ星「Château Cordeillan-Bages(コルディアン・バージュ)」でソムリエを務める。帰国後、東京都白金台の三ツ星レストラン「Quintessense(カンテサンス)」で働き、レストラン移転に伴い同場所にて2013年に「TIRPSE(ティルプス)」を開業。現在、同店の経営を行いつつ、レストラン・プロデューサーとして活動の幅を広げている。



今回インタビューをさせていただいたのは、大橋直誉さん。
誰もが一度は耳にしたことがある、レストランガイドブック「ミシュラン」。このガイドブックで、大橋さんは、開業後わずか2か月・世界最速で“一ツ星”を獲得。料理そのものはもちろん、「ランチコースをデザートのみにする」といった斬新な企画でも人気を集めている。さらに、最近では、広島県尾道市でのプレミアム屋外レストラン「DINING OUT」のプロデュースを行い、メディアでも報じられるなどいっそう注目が高まっている。
そんなフレンチ界の「時の人」、モットーは「自分がしたいことしかしない」だそう。さらに、エピソードも競輪選手を目指していたとか、ぶっつけでフランスに行ったとか……。あれれ? シビアで寡黙な方かと思いきや、なんだかとっても自由そう!
036限目、大橋直誉さんに迫りたいと思います。

 

もともとは、競輪選手を目指していました

ー小さいころから、「食」の世界に興味があったのですか?

「いいえ、全く(笑)。父が競輪選手で、高校卒業後は僕も競輪選手を目指してトレーニング漬けの3年間を過ごしていました。でも結局、試験に落ちて、1年間くらいパチンコだけで生活を……。当時付き合っていた彼女と母親が調理師学校を勧めてきて、通うことになりました。学校には最低日数しか行かなかったし、料理にも目覚めていません(笑)。」

「目標も夢もないうちに実習に出ることになっちゃって。「東京とか考えたこともねーや。行ってみよ。」くらいの感覚で東京に。そこでフレンチの有名店「ひらまつ」で働くことになるんです。最初の1年は、実力的にダメダメで、いっぱい迷惑をかけましたね。次の1年は接客をしました。それも、接客が楽しかったからというほどの理由は、この時点では無かったんです。ただただ、食いっぱぐれないように働いていました。」

人生を変えた一冊の本.

—それは意外! そんな大橋さんがソムリエになったきっかけ、気になります。

「この頃、本田直之さんの『パーソナル・マーケティング』いう本を読んで、「今、何をしたら効果的なんだろう」って考えました。で、ソムリエを目指した。ソムリエの資格を取るのに本当は5年かかるんですけど、僕2年で取ったんです。「以前、3年間働いていたお店が諸事情で確認が取れません。今のお店では2年間働いています!」って言って、取得しました(笑)。もちろん、それ相応の知識はあるので安心してください(笑)。」

「著者の本田さんとは、今では親交があります。その後、別のお店を退職するんですが、それは平日に行われる本田さんのセミナーに通いたかったから(笑)。そういう様々な場面で、いろんな人と繋がっていきながら、一方でほかの働き先を探したけど、どこも経験が足りないからって採用してくれなかったの。で、フランスに行くことにした。」

—フランスに行くとなると、準備が大変だったのではありませんか?

「“ぶっつけ”ですよ。フランスに着いたあと、ひとまず知人の日本人のところに行ったら「忙しいから夜に来い」って言われて。夜にその人と飲み交わしながら、「家はここで探しなさい、銀行口座はここで作りなさい、Wi-Fiはこの店で利用しなさい」って、基本中の基本からお世話になりました(笑)。」

「何か月かした後、その日本人の知人と話しながら、「パリの一ツ星レストランで三年間トップで……」みたいな嘘の履歴書を、地方の二ツ星レストランに送ったんです(笑)。そしたら、来てくださいって言われて!はじめに「いつまで働けますか」ってフランス語で尋ねられたけど、それが聞き取れない(笑)。とりあえず「うぃー、うぃー」(Oui 日本語で「はい」の意)って答えていたら、「そうじゃない……」って呆れられて。でも結局、半年間くらいそこで働きました。」

お客さんは、至高の「体験」を食べに来ている

—大橋さんが開かれた「TIRPSE」では、どのようなことをしているのですか?

「『Quintessense』で働き続けるほうが、世間的には安定した選択かもしれない。でも、この土地が好きだったし、なにか自分に変化が欲しかったし……。移転後一カ月半で開店までもっていくのは、かなり大変でした。もちろん、ミシュランを意識して開店した訳ではありませんが、「世界最速で星をとった」という事実によって、良い意味でとても動きやすくなった感じがします。これまでに、海外のシェフとコラボしたイベントを行ったり、日本酒や有田焼とのコラボディナーを行ったり。去年の7月からは、「一年間、ランチコースをデザート6皿にする」という企画をしています。これは、全部やりたいからやったことです。」

「だって、想像してみてください!ランチの時間帯に「なんか、デザートを6皿食べたい気分だよねー!」って話す人なんていないだから、失敗した可能性だってあります。もともとランチの集客も売上もあるのに、その時間を放棄してデザートを出すので。でも、これをやってみることに自分は価値を感じる。だから実行する。」

—それが、レストランプロデューサー! このようなお仕事のこと、初めて知りました!

「そりゃあ当然。これ、新しく作った名称だから(笑)。「DINING OUT」のプロデュースを行うにあたって、ほかに料理人の関係者がいてややこしかったんですよ、それで、分かりやすい肩書をつくりました。」

――「DINING OUT」は、食を通じた地域経済の活性化を目指す地域振興プロジェクト。第8回目が、2016年3月26~27日、広島県尾道市で開催された。参加費は10万円以上、限定60名という大変プレミアムなイベントだ。大橋さんは、本イベントの舞台となる屋外レストランをプロデュース。そのドキュメンタリーはテレビ番組でも放送された ――。

「お客さんは料理を食べに来ているんじゃない、至高の「体験」をまるごと食べに来ているんだ、そういうことを意識しながら、プロデュースを行っていきました。とはいえ、僕が主催では無いので、「やりたいことをやらせていただいた」という側面が強かったんですけどね。イベントが終わって尾道にいったときに、「尾道を元気にしてくれてありがとう」っていったことを言われて。こういう言葉を聞くと、小恥ずかしくなるけど気持ちがいいもんですね。」

—今後、どのようなプロデュースを行っていきますか?

「直近だと「今年の7月、8月は日本酒かお茶のペアリングしか出さない」っていう企画。ペアリングってね、料理一品一品に、ベストな組み合わせのお酒をセレクトすることで、大体ワインで行うことが多いんだけど、あえてこの2か月間、ワインを使わないようにする、と言っても、今(6月初頭)は、まだ具体的なことは何も決まってない。でも、先に発表しちゃう。発表しちゃうとプレッシャーがかかる位置に自分を置けるんだよね。今日と明日が一緒だと、何も考えなくて生きていける。でも、「明日変わります!」って宣言したら、変わらざるを得ないでしょ?」

「活動を通して、有名になりたいとか思っていません。たとえ知名度が高まる絶好のチャンスでも、自分がやりたくないことは断ります。ただ、いま少しずつ、自分の発言に価値が生まれるようになってきていると感じています。いい意味で、その価値を周りに分け続けていく、そういうプロデュースを行っていきたいですね。」

自分の意思に従って、めいっぱい人生を楽しんで

—最後に、学生へ向けてメッセージをお願いします。

「大人になって、できなくなるだろうなって思うことをなんでもやってみてください。そして、質の高い、良いものに触れてください。そのためのヒントは3つ。
一つめは、旅に出ること。「自分の世界の外側」に積極的に出向いてください。人と出会うと、勝手に人が変化を与えてくれるから。
例えばね、7人で飲みに行ってみんな「とりあえず生」って言うなかで、ひとりだけ聞いたことも無いお酒頼んでいたら、ちょっと「おお!?」って思うでしょ。で、次に自分が他のメンバーと飲みに行ったときに、前回気になったそのお酒を頼んでみる、“成長”ってそういう小さなことの積み重ねだと思うんですよ。」

「二つめは、本を読むこと。これも、自分の世界を閉じないために。よく言うように、Webの世界にだけにいたら、自分の関心の領域を出ない。僕自身も、本田さんの著作に出会って、世界が広がりました。読んだ当時は、全く関係の無いように思われた知識が、思わぬ拍子に役に立つことだってありますから。」

「三つめは、自分がしたいことしかしない。これは、僕自身が特に大切にしていることでもあります。「人」に関してもそうで、嫌いなやつとは付き合わない。ひとたび「嫌だな」って感じたら、たいてい上手くいかない。それに、本当に自分に必要だったら、またどこかで出会うんですよ。だから、自分の意思に従って!めいっぱい人生を楽しんでください!」

036限目「大橋直誉」学
Presented by 今学びたい100人の学問

 

編集後記

にこやかな、しかし真剣な眼差しでインタビューに応じていただいた大橋さん。ソムリエや料理人といった一面では窺い知れない、大橋さんの素顔に迫ることのできた30分間でした。学生にはまだまだ敷居が高そうな白金台のお店……ではありますが、就職したあかつきには、是非「TIRPSE」で食してみたいものです。

2016/6/4
九州大学 馬田知実

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